第134章 毒が回る

ほんの少しのあいだ、有岡里穂は視線を引っ込めた。階段を下りたところで、ちょうど阿部蓮太郎が書斎から出てくる。

彼女の表情が重いのを見て、阿部蓮太郎はそっと近づき、問いかけた。

「見えたか?」

有岡哲哉の車が門の前にしばらく停まっていたことは、阿部蓮太郎も朝から気づいていた。だが、有岡家の人間が里穂に向ける態度を思えば、わざわざ口にする気にもなれず、黙っていたのだ。

それでも――里穂は見てしまった。

「行く?」阿部蓮太郎が訊く。

里穂が考えかけた、その瞬間。玄関のチャイムが鳴った。

里穂は肩をすくめる。

「考える必要、なくなった。来たみたい」

玄関へ向かい、扉を開けると――有...

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